リーダーシップPM理論

~リーダーシップの二元論~

リーダーシップ研究の歴史をたどると、リーダーの資質や能力に注目した特性発見的研究、リーダーはどのような行動をとるかに注目した行動記述的研究、リーダーの側からだけでなくリーダーを取り巻くメンバーや環境との関係に注目した状況適合的研究といった、大きな流れが見られます。どれが絶対的なアプローチということではありませんが、行動記述的研究や状況適合的研究では、多くの理論が生まれてきています。PM理論は、世界でもよく知られた行動記述的研究の一つです。
 
PM理論に見られるように、行動記述的研究の大多数はリーダーシップ行動を2種類に分けています。
 
これをリーダーシップの二元論といいます。研究によってその行動名称は異なりますが、大別すれば、仕事・課題志向的行動と人間関係志向的行動であり、リーダーはこの2つの面からメンバーに影響を与えることが明らかにされています。
 

行動記述論的研究に見られる行動次元の名称

研究 仕事・課題志向的行動

人間関係志向的行動

オハイオ州立大学研究 構造づくり
initiating structure
配慮
consideration
ミシガン大学研究

仕事中心
job-centered

従業員中心
employee-centered

PM理論 課題遂行
performance

集団維持
maintenance

マネジリアル・グリッド 生産への関心
concern for production

人への関心
concern for people

 

リーダーの行動から導き出されたこうした二元論とはやや趣を異にしますが、リーダーシップが目ざす効果性ということに着目した2つのリーダーシップ論にも、近年関心が集まっています。一つは、メンバーとの相互の交流を通じて目標を達成しようとするリーダーシップ行動であり、従来のリーダーシップ理論の多くに共通するものです。このようなリーダーシップを交流型リーダーシップとよびます。
 
これに対して、近年は、積極的に変化を導入してメンバーに刺激を与え革新を導く変革型リーダーシップが注目されています。変革型リーダーシップでは、理想的な影響力、メンバーのモチベーション喚起、考え方や視野を広げる知的刺激の提供、達成や成長を目ざしたメンバー個々への配慮の4要素が中心となります。
 
もちろん、ここでも2つの型は背反するものではなく、交流型リーダーシップでメンバーとの良好な関係を築き、変革型リーダーシップでメンバーの意識変革に働きかけるといった、両者を適切に行使できるリーダーが望ましいことは、言うまでもありません。

メンバーとマネジャー 2024/10/25

リーダーの6つの勢力

~リーダーに求められる要件~

リーダーは資質をもった者だけが選ばれるという考え方に対して、誰もがリーダーになれるという考え方があります。リーダーシップ指南書とでもいうべき書籍が毎日のように出版されていますが、そうした中にはリーダーになるためのアドバイスやヒントが多く紹介されています。すべてが誰にも役立つというものでもありませんが、興味深いリーダー観、リーダーシップ観も少なくありません。
 
こうしたリーダー観でよく知られているものに、GE(General Electric)社のCEOであったジャック・ウェルチが当時提唱した“4Es”があります。“4Es”とはリーダーに求められる要件であり、
 
    Energy: 新しいことに挑戦しようとするエネルギーに満ちている
    Execution: 行動に移すことができる
    Edge: 自分自身の考えをもち、確固たる決断や行為がとれる
    Energize: 周囲に力を与え元気にできる
 
の4つを指します。
 
こうした“E”で表されるリーダーの要件は他にもあります。たとえば組織研究者のナドラーは、Envisioning(明確なビジョンを描くことができる)、Empowering(メンバーがもっている力を引き出すことができる)、そしてEnabling(変化や変革を具体的に実現できる)の“3Es”をあげています。もう一つ紹介すると、かつては世界有数の電子・通信機器メーカーで会ったモトローラ社では、Envision、Execution、Edgeに加えて、Energine(周囲を元気にできる)、そしてEthics(倫理観をもっている)の“5Es”が掲げられていました。
 
また、“E”でまとめられるものではありませんが、リーダーシップ研究者のベニスは、「指針となるビジョン」「情熱」「誠実さ」「信頼」「好奇心と勇気」の5つを、リーダーが備えるべき要素としてあげています。
 
これらはいずれも、リーダーが効果的にリーダーシップを行使するための要件といえますが、しかし決して生得的なものではなく、誰もが努力次第で身につけることが可能です。ベニスもその著書の中で上記の5要素を紹介しつつ「ここには変えることのできない生得の特質などひとつもない」と断言しています。
 
結局、リーダーとは生まれつくものではなく、努力の過程でなっていくものであるといえます。つまり誰もがリーダーになる可能性をもっているということなのです。冒頭に触れたたくさんのリーダーシップ指南書は、そうした可能性を開花させた人たちの努力の過程として読めば、また面白さも違ってくるかもしれません。

メンバーとマネジャー 2024/10/25

リーダーシップ

~信頼できるリーダー~

リーダーはメンバーに対してさまざまな影響力を行使するパワーを持っています。しかし、その影響力がメンバーに受け入れられるためには、メンバーから信頼される存在でなければなりません。

 

では、信頼されるためにはどのような条件が求められるでしょうか。心理学者のバトラー(K. Butler)は、部下から信頼される上司の条件を以下の10個にまとめています。

 

信頼形成の10条件(バトラー)

条件
1. 接触可能性availability 必要な時にはいつでも会える
2. 有能性competence 仕事上の判断が的確である
3. 一貫性consistency 言う事とする事が一致している
4. 慎重さdiscreetness 口が堅く安心して相談できる
5. 公正性fairness 誰にでも分け隔てのない対応をする
6. 誠実さintegrity 何事にも誠実に対処する
7. 忠実さloyalty 自分が不利になってもかばってくれる
8. 開放性openness 自分の考えを隠さずオープンに言ってくれる
9. 約束の履行promise fulfillment 約束したことは守ってくれる
10.受容性receptivity 言うことを真剣に聞いてくれる

 

角山剛らは、この10条件をもとに作成した質問項目を用いて、上司への信頼感と会社へのコミットメントを探る研究を行っています。この研究では、質問紙調査で得られた部下からの評価に基づいて、上司の行動を6つのカテゴリーに分け、それぞれが部下からの信頼感にどの程度影響しているかを見ました。

 

上司の好ましい行動については、「仕事に精通し部下の力になる」「誠実・公正に部下に対応する」「オープンで率直である」の3つのカテゴリーに分かれ、これらのカテゴリーに含まれる行動がよく見られるほど、部下からの信頼も篤いという結果になりました。

 

一方、上司の好ましくない行動は、「事なかれ主義で頼りない」「部下の尊厳を傷つける」「保身と出世しか考えていない」の3カテゴリーに分かれ、これらのカテゴリーに含まれる行動がよく見られるほど、部下からの信頼を損ねていることが明らかになりました。

 

さらに、上司の行動が信頼形成条件を満たしている場合、上司に対する部下の信頼感が高まり、それが勤続意思を強めるという連鎖も成立していました。

 

部下のやる気を鼓舞し、組織へのコミットメントを高める上でも、信頼できるリーダーを目ざすことが大切です。

メンバーとマネジャー 2024/10/25

構造転換

~「ろうそく実験」の展開~

心理学者のドゥンカーは、ろうそくを用いた実験によって、人の先行する経験が問題の解決を妨げてしまう「機能的固着(固定観念の強さ)」を明らかにした。
 

ろうそく実験

 

【ろうそく実験】
実験の参加者には、画鋲が入った小箱と、ローソク、マッチを与えられ、テーブルに蝋が垂れないようにローソクを壁に取り付けることが求められる。
 

参加者はローソクと壁を蝋で接着させようとしてみたり試行錯誤するが、なかなか解が得られない。
 

しかし、画鋲を小箱に入れず外に出して与えた場合には、ほとんどの参加者がすぐに正解に到達する。すなわち、箱の中にローソクを立てて、それを画鋲で固定するのである。

 

画鋲が箱に入っていると、「箱は画鋲の入れ物」という固定観念が生まれ、箱を利用しようとする
アイディアが出にくくなる。ドゥンカーはこれを「機能的固着」と呼び、先行する経験が問題の解決を妨げてしまう固定観念を人が持っていることを明らかにした。

 

ドゥンカーの実験は1945年に行われたものですが、その後、別の研究者たちによってこの実験を発展させた大変興味深い研究が行われています。
実験の内容自体は同じものですが、参加者には実験課題が示され、解決までに要する時間を計ることが告げられます。実験参加者は2つのグループに分けられており、一方のグループでは時間の計測ということだけが告げられています。しかしもう一方のグループでは、早く解けた上位25%の参加者は5ドルもらうことができ、1番になった参加者は20ドルもらうことができると告げられます。このあと実験がスタートします。

 

さて、結果はどちらのグループの方が短時間で解決に至ったでしょう。答は前者のグループ、すなわち時間を計測することだけで報酬は提示されなかったグループの方が、報酬を提示された後者のグループよりも、平均で3分半短い時間で問題を解くことが出来ました。いいかえれば、報酬を提示されたグループの方が解決に要する時間が長くかかってしまったのです。

 

この発見が意味していることは大変重要です。つまり、報酬が常に高い成果を生むとは限らず、場合によっては効率を低めてしまうことすらあるということです。ドゥンカーの研究をもとにした一連の研究では、解決方法が得やすい簡単な課題設定の場合には報酬の提示が成績を高めましたが、解決方法が簡単には見えてこない複雑な課題設定の場合には、報酬がかえって成績の低下をもたらすことが明らかにされました。
これは、心理学者デシ(E.L. Deci)の研究が明らかにした内発的モチベーションの重要さを示すものとも考えられます。すなわち、外的報酬が常にモチベーションを高めるとは限らず、達成の喜びを刺激するような適度な難しさや面白さ、あるいは課題のもつ意味や重要性がモチベーションを刺激し、達成時の満足感や充足感といった内的報酬につながるのです。

 

ドゥンカーの実験課題は複雑状況での課題といえます。このような状況下で外的報酬を用意した場合には、報酬に縛られてしまって新しいアイデアや創造性が発揮しにくくなり、機能的固着が起きやすくなるといえそうです。

 

金銭に代表される外的刺激が不要ということではありません。外的刺激も大切ですが、その効果を発揮させる範囲は、考えられているよりも狭いということです。思考構造の転換を促しパフォーマンスを高めるためには、喜びや充足感といった内的な報酬が効果をもつこと、すなわち内発的モチベーションが重要であるということなのです。

メンバーとマネジャー 2024/10/25

X理論・Y理論

~欲求系組織理論~

マズロー(A. Maslow)が提唱した自己実現を目ざす人間存在を仮定する欲求階層理論は、経営の世界にも大きな影響を与えました。マグレガー(D. McGregor)のX理論・Y理論も、研究の系譜としてはマズローに 連なるもので、欲求系組織理論ともよばれます。

 

欲求系組織理論は、欲求やパーソナリティの成長を基本に据えた理論であり、組織と個人との関係をパーソナリティの側面から論じた、アージリス(C. Argyris)の研究もよく知られています。

 

アージリスは、人のパーソナリティは自己実現に向かって発達成長していく有機体であるととらえ、幼児の状態から成人の状態へと向かう連続体上で、以下の7つの次元を強調しました。

 

 

アージリスによれば、組織成員はこの連続体上を未成熟段階から成熟段階に向かって成長し、自己実現に 近づいていきます。したがって組織としては、成員が自己実現を目ざすことのできるプロセスと組織目標の 遂行プロセスが合致するような施策をとることが重要になります。

 

そうした施策の一つとしてアージリスがあげたのが職務拡大です。これは、仕事の幅を広げることによって、 組織成員が本来もっている能力の中で認知的、情緒的な側面を活用する機会を増やすことを目的とする施策です。アージリスは具体的に、①組織の意思決定への参加制度の導入、②自分の仕事の質に責任が負えるような職務編成、③フィードバック制度の導入、④仕事の流れや基準に自分の考えが活かせる自己調節システムの導入、の4つの職務拡大を提唱しています。

 

これらは仕事を水平的に広げていくだけではなく、仕事に深みをもたらすものでもあります。つまり、職務拡大には水平的な拡大と垂直的な拡大の2つの面があるということです。

メンバーとマネジャー 2024/10/25