実際の対人コミュニケーションの場では、自分が気づかないままに結果的に相手に意思を伝えてしまったり、隠そうとしても自分の意思が相手に読まれてしまうことも少なくありません。これは、コミュニケーションが発話だけでなく、発話に伴うさまざまなシグナルから成り立っていることから生じるものです。
こうしたシグナルには、語勢や抑揚、表情や姿勢、しぐさ、視線など多くのものがあります。発話、すなわち言葉のコミュニケーションが意図的で意識的になされるのに対して、これらのシグナルは言葉によらないコミュニケーションの手段であり、ノン・バーバル・コミュニケーション(NVC)とよばれます。NVC は本人に意識される度合いが低く、そのぶん本音が現れやすくなります。
たとえば、視線の交差(アイ・コンタクト)はNVCの代表的な例です。心理学者のケンドン(A. Kendon)は、アイ・コンタクトのもつ機能を4つにまとめています。
1.認知機能
自分が相手に注目し、つながろうとする意思をもっていることを示す。
2.フィードバック機能
相手を見ることで、自分の働きかけに対する反応を読み取り、次の行動へのフィードバックを得る。
3.調整機能
対話場面では、話し手と聞き手のアイ・コンタクトが話者交替の合図となる。
4.表現機能
自分の態度や感情を相手に伝達する。相手に好意をもつとアイ・コンタクトが活発になる。
サッカーの試合などでもアイ・コンタクトはよく話題にのぼります。試合中はこれらの機能がフルに使われることで互いの連携も密になり、効果的なパス回しやボール出しが進んでいくと考えられます。
アイ・コンタクトの例では、エクスライン(R. V. Exline)らによる興味深い研究があります。エクスラインらは、対話場面で「できるだけ相手に真意を隠すように」という指示を与えて対話させた場合の、相手へのアイ・コンタクトの量を測定しました。
結果は、そうした指示がない場合の対話場面に比べると、男性ではアイ・コンタクトの量が67%から61%に低下しましたが、一方女性では69% から75%へと上昇しました。
ここからは、男性と女性では対話時の方略としてのアイ・コンタクトの用い方に違いがあることがうかがわれます。男性よりも女性の方が一枚上手ということかもしれません。
アイ・コンタクトは文化によっても違ってきます。日本では相手を見つめることは時として失礼にあたりますが、欧米では逆に相手の目を見ずに話すことの方が非礼ととられます。NVCは文化に規定される面も大きいので、解釈には注意が必要です。