~プランド・ハップンスタンスを活かす~
クランボルツのプランド・ハップンスタンス(planned happenstance)は、予期しない出来事がキャリアの機会を開いていくことを示した考え方であり、たまたま出会った出来事であっても、それを自らの主体的な努力によってチャンスに変えることの大切さを述べたものです。
ところで、こうした偶然の出来事や周囲で起こる出来事をどうとらえるかは、個人によって差があります。たとえば、コップに水が半分入っているのを見て、『まだ半分もある』と思う人もいれば『もう半分しかない』と思う人もいます。一般的にいえば、前者は楽観的思考であり、後者は悲観的思考であるといえます。
楽観的思考傾向の強い人と悲観的思考傾向の強い人とでは、ものごとの原因をどのようにとらえ解釈するかで違いの見られることが知られています。これを説明スタイルといいますが、たとえば自分に起こった悪い出来事に対して、それぞれの傾向を持つ人では表のような説明スタイルをとることが明らかにされています。
悪い出来事に対する説明スタイル
楽観的思考傾向が強い人 | 悲観的思考傾向が強い人 |
---|---|
その原因は自分以外にある(外在的) | その原因は自分にある(内在的) |
それは一時的で後には尾を引かない(一時的) | それは今後も尾を引く(継続的) |
それが他のことに及ぶことはない(特定的) | それが自分のなすこと全般に及ぶ(全般的) |
こうした説明スタイルが人の行動に影響を与えることが、多くの研究で明らかにされています。心理学者のセリグマンらが生命保険会社営業員を対象に行った研究では、楽観主義的営業員の販売成績が1年目では悲観主義的営業員に比べて29 %高く、2年目になると130%と2倍以上の開きが出ました。
また、入社2年まで在職した者とそれまでに離職した者についてみると、2年間継続した者の67%は楽観主義的営業員である一方、離職者の59%は悲観主義的営業員でした。つまり、楽観主義・悲観主義という説明スタイルの違いが、実際の販売成績と仕事継続率に差を生み出していたのです。セリグマンの研究はアメリカで行われたものですが、日本でも角山剛らによって同様の結果が確認されています。
もちろん、楽観的であればすべてよしというわけではありません。悲観的に考えるからこそ早くから失敗に備えることができるという考え方もあります。ただ、クランボルツが示唆している、予期しない出来事をキャリア発達のチャンスととらえることができるかどうかは、その出来事に対して目をそむけず積極的に活用していく姿勢にも大きくかかわってきます。
コップに水が『まだ半分ある!』という積極的思考が、プランド・ハップンスタンスの効果をさらに高めるものといえるでしょう。