プランド・ハップンスタンス
メンバー自身の気づき 2024/10/25

~プランド・ハップンスタンスを活かす~

クランボルツのプランド・ハップンスタンス(planned happenstance)は、予期しない出来事がキャリアの機会を開いていくことを示した考え方であり、たまたま出会った出来事であっても、それを自らの主体的な努力によってチャンスに変えることの大切さを述べたものです。

 

ところで、こうした偶然の出来事や周囲で起こる出来事をどうとらえるかは、個人によって差があります。たとえば、コップに水が半分入っているのを見て、『まだ半分もある』と思う人もいれば『もう半分しかない』と思う人もいます。一般的にいえば、前者は楽観的思考であり、後者は悲観的思考であるといえます。

 

楽観的思考傾向の強い人と悲観的思考傾向の強い人とでは、ものごとの原因をどのようにとらえ解釈するかで違いの見られることが知られています。これを説明スタイルといいますが、たとえば自分に起こった悪い出来事に対して、それぞれの傾向を持つ人では表のような説明スタイルをとることが明らかにされています。

 

悪い出来事に対する説明スタイル

楽観的思考傾向が強い人 悲観的思考傾向が強い人
その原因は自分以外にある(外在的) その原因は自分にある(内在的)
それは一時的で後には尾を引かない(一時的) それは今後も尾を引く(継続的)
それが他のことに及ぶことはない(特定的) それが自分のなすこと全般に及ぶ(全般的)

 

こうした説明スタイルが人の行動に影響を与えることが、多くの研究で明らかにされています。心理学者のセリグマンらが生命保険会社営業員を対象に行った研究では、楽観主義的営業員の販売成績が1年目では悲観主義的営業員に比べて29 %高く、2年目になると130%と2倍以上の開きが出ました。

 

また、入社2年まで在職した者とそれまでに離職した者についてみると、2年間継続した者の67%は楽観主義的営業員である一方、離職者の59%は悲観主義的営業員でした。つまり、楽観主義・悲観主義という説明スタイルの違いが、実際の販売成績と仕事継続率に差を生み出していたのです。セリグマンの研究はアメリカで行われたものですが、日本でも角山剛らによって同様の結果が確認されています。

 

もちろん、楽観的であればすべてよしというわけではありません。悲観的に考えるからこそ早くから失敗に備えることができるという考え方もあります。ただ、クランボルツが示唆している、予期しない出来事をキャリア発達のチャンスととらえることができるかどうかは、その出来事に対して目をそむけず積極的に活用していく姿勢にも大きくかかわってきます。

 

コップに水が『まだ半分ある!』という積極的思考が、プランド・ハップンスタンスの効果をさらに高めるものといえるでしょう。

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スピル・オーバー仮説

~ワーク・ライフ・バランス~

ワーク(仕事)とライフ(家庭などプライベート)は相互影響関係にあり、それぞれ肯定的な側面と否定的な側面が存在することを、スピル・オーバー仮説と呼ぶ。
 

・ポジティブ・スピル・オーバー:仕事上の役割が増えることで、プライベートにも張りが出るなど良い影響が出ること
・ネガティブ・スピル・オーバー:仕事上の負担が増えることで、心身ともにストレスを感じ、私生活に悪影響が出ること

 

仕事と生活をいかに調和させていくかというワーク・ライフ・バランスの問題は、企業が向き合うべき重要な課題となっています。ワーク・ライフ・バランスという用語自体は以下のように定義されています。
 
・年齢、人種、性別にかかわらず、誰もが仕事とそれ以外の責任、欲求とをうまく調和させられる生活リズムを見つけられるように、就業形態を調整すること(イギリス貿易産業省)
 
・働く人が仕事上の責任を果たそうとすると、仕事以外の生活でやりたいことや、やらなければいけないことに取り組めなくなるのではなく、両者を実現できる状態 (厚生労働省)
 
ワーク・ライフ・バランスへの支援は、企業にとっては新たな負担が生じるようにも見えるかもしれませんが、むしろ企業業績に好影響を及ぼすという調査結果も報告されています。いずれにしても、今後社会全体で取り組んでいく必要のある重要な問題であり、東京大学社会科学研究所ではその推進に向けて以下の5つの提言を行っています。
 
<WLB推進に関する5つの提言>
提言1 「WLB推進は生産性や組織コミットメントの向上につながる
 企業がWLB推進に取り組むことは、社員の生産性の向上や組織コミットメント、さらに勤続意向などの向上につながると考えられ、企業の人材活用において有効である。
 
提言2 「WLB推進はリスク低減に貢献する
 企業がWLB推進に取り組むことは、人材活用におけるリスク低減に貢献するものとなる。
 
提言3 「WLB推進には職場マネジメント改革が必要
 WLBを実現する上で重要な取り組みは、「職場のマネジメント」と「職場の風土」の改革であり、それらを経営課題として全社的に取り組むことが必要である。
 
提言4 「WLB支援に関わる施策はハードよりソフトが鍵
 WLB支援にかかわる諸制度の適応には、その周知徹底と制度を利用しやすくする環境整備が必要である
 
提言5 「社会が一体となって取り組むことがWLB推進の近道
 企業によるWLBの推進は、特定の企業において完結するものではなく、社会全体として取り組むことが必要となる。
 

(東京大学社会科学研究所 2009)

 
働くこと(ワーク)とプライベートな生活(ライフ)を充実させることとは緊密に結びついており、どちらか一方という選択は現実的ではなくなってきています。企業や国の施策に頼るばかりでなく、一人一人が自らの問題として取り組んでいく意識が求められています。

2024/10/25

コミュニケーション

~アイ・コンタクト~

実際の対人コミュニケーションの場では、自分が気づかないままに結果的に相手に意思を伝えてしまったり、隠そうとしても自分の意思が相手に読まれてしまうことも少なくありません。これは、コミュニケーションが発話だけでなく、発話に伴うさまざまなシグナルから成り立っていることから生じるものです。
 

こうしたシグナルには、語勢や抑揚、表情や姿勢、しぐさ、視線など多くのものがあります。発話、すなわち言葉のコミュニケーションが意図的で意識的になされるのに対して、これらのシグナルは言葉によらないコミュニケーションの手段であり、ノン・バーバル・コミュニケーション(NVC)とよばれます。NVC は本人に意識される度合いが低く、そのぶん本音が現れやすくなります。
 

たとえば、視線の交差(アイ・コンタクト)はNVCの代表的な例です。心理学者のケンドン(A. Kendon)は、アイ・コンタクトのもつ機能を4つにまとめています。
 

1.認知機能
自分が相手に注目し、つながろうとする意思をもっていることを示す。
 

2.フィードバック機能
相手を見ることで、自分の働きかけに対する反応を読み取り、次の行動へのフィードバックを得る。
 

3.調整機能
対話場面では、話し手と聞き手のアイ・コンタクトが話者交替の合図となる。
 

4.表現機能
自分の態度や感情を相手に伝達する。相手に好意をもつとアイ・コンタクトが活発になる。
 

サッカーの試合などでもアイ・コンタクトはよく話題にのぼります。試合中はこれらの機能がフルに使われることで互いの連携も密になり、効果的なパス回しやボール出しが進んでいくと考えられます。
 

アイ・コンタクトの例では、エクスライン(R. V. Exline)らによる興味深い研究があります。エクスラインらは、対話場面で「できるだけ相手に真意を隠すように」という指示を与えて対話させた場合の、相手へのアイ・コンタクトの量を測定しました。
 

結果は、そうした指示がない場合の対話場面に比べると、男性ではアイ・コンタクトの量が67%から61%に低下しましたが、一方女性では69% から75%へと上昇しました。
ここからは、男性と女性では対話時の方略としてのアイ・コンタクトの用い方に違いがあることがうかがわれます。男性よりも女性の方が一枚上手ということかもしれません。
 

アイ・コンタクトは文化によっても違ってきます。日本では相手を見つめることは時として失礼にあたりますが、欧米では逆に相手の目を見ずに話すことの方が非礼ととられます。NVCは文化に規定される面も大きいので、解釈には注意が必要です。

2024/10/25

欲求階層説

~欲求階層説の証明~

マズローの欲求階層説は西欧の文化の中で研究されたものですが、東洋にもこれと似た考え方があります。古代中国は斉の国王桓公の宰相であった管仲の言行録「管子」の中に『衣食足りて礼節を知る』という言葉があります。衣服や食物という生活上の基本となるものが満たされて初めて、人との交わりの中で欠かせない 礼儀や節度を意識するようになるという意味です。

 

欲求階層説でいうなら、衣や食は生理的欲求、安全欲求に相当するものであり、礼や節は愛情・所属欲求や自律欲求に関わるものと考えることができます。下層の欲求が充足された後にさらに上位の欲求が意識されるようになるという点では、洋の東西を問わず同様の見方が存在しているといえ、大変興味深いものがあります。

 

ところで、欲求階層説を実証するには欲求を階層ごとに測定する必要が出てきます。実はこれが大変難しいのです。マズローの欲求階層説を説明するときには、通例では欲求のピラミッドとよばれる三角形の図が用いられます。図ではそれぞれの階層が線で区切られており、明確な階層性が示されています。 しかし、現実にはそれぞれの階層は図に示されるようなはっきりとした区分けがあるわけではなく、虹の七色のように濃淡が緩やかに変化し隣の階層に移っていくと考える方が自然です。

 

たとえば、自律欲求と自己実現欲求とはどのレベルで明確に区別できるでしょうか。周囲から一目置かれ 好かれる存在になりたいというのは、自律欲求でしょうか、それとも愛情・所属欲求でしょうか。このように、 欲求を階層別に測定しようとする場合、階層が重なり合う部分の欲求を区別することが難しく、質問項目を 作るにも適切で信頼できるものが用意できません。

 

欲求階層性の概念はイメージとしては大変わかりやすいものですが、実際の測定が難しいことから、マズローの説は検証不能な説(non-testable theory)といわれることもあります。だからといって、検証が全くなされていないということではなく、多くの研究者がさまざまな方法を工夫しながらその検証を試みています。 ただ、これまでの研究を総合すると、欲求の5つの階層が独立して明確に見いだされた研究はまだなく、 階層が見られてもマズローの区分とは必ずしも一致しないなど、実証的な検証は道半ばです。

 

しかし、欲求階層説には私たちが納得できる経験的な妥当性があります。少しでも高みを目ざし自己実現に至ろうとする姿を肯定するマズローの理論は、人々の納得感と共感を生み、企業・組織の人間観や従業員 施策にも大きな影響を与えました。

 

2024/10/25