フェスティンガー
メンバーと職場 2019/02/04

~認知的不協和~

フェスティンガー(L. Festinger)は、社会心理学の世界では知らない者がいないというほど有名な研究者です。彼の代表的な業績は、なんといっても「認知的不協和 cognitive dissonance」理論です。これは、人は相容れない2つの認知をもつと不快(不協和)な状態になり、この不快さを低減して安定した(協和)状態に戻そうとする行動をとるというものです。

 

たとえば、仕事を終えて同僚や仲間と飲んだ後、こってりとしたラーメンを食べて帰るのが好きという人も多いようです。コレステロールを減らすよう医者からいわれている身には、これは健康によくないことは分かっています (認知A)。けれども、飲んだ後のラーメンの味はまた格別です(認知B)。

 

つまり、この2つの認知は相容れない不合理なもので、その不合理な認知の下でラーメンを食べているあなたには、どこかやましい気持ちが生まれている可能性があります。このやましさが、すなわち不快状態です。

 

不協和状態とは、いわば2つの相容れない認知によって心の秤のバランスが崩れている状態であるといえます。秤のバランスが崩れたままだと緊張感や不快感が生じ、これを元に戻そうとする行動が生まれます。バランスを回復するためには、秤の重い方の皿を軽くするか軽い方の皿を重くする必要があります。
フェスティンガーはこれを巧みな実験を用いて検証しました。

 

認知的不協和低減の方法
方法
認知を変える スープを飲み干さなければラーメンそのものは身体に悪いものではない
行動を変える 飲んだ後でラーメンを食べることをやめる
行動を評価し直す 飲むときに脂っこいものは控えているから大丈夫
協和的な新しい情報を加える 同僚の話では、飲んだ後のラーメンは、健康への負担は実は小さいらしい

 

このように、認知のバランスが崩れると不快な緊張状態が生じ、バランスを回復する方向に向けて行動が引きおこされるとする考え方を総称して、認知的均衡理論あるいは単にバランス理論といいます。フェスティンガーの認知的不協和理論はその代表的理論であり、バランス回復のメカニズムを解き明かしたものとして高い評価を得ています。

関連記事

集団の理論、集団の影響力

~レヴィンの足跡~

クルト・レヴィン(Kurt Lewin)は、現代心理学の発展、特に社会心理学の発展に大きな影響を与えた心理学者です。1890年ドイツに生まれ、フライブルク大学とミュンヘン大学で学び、1914年にベルリン大学で学位を得ました。その後兵役を終えて哲学の講師としてベルリン大学に戻り、1926年に哲学と心理学の教授に就任しました。
 

当時のドイツは世界の心理学の中心であり、特にゲシュタルト心理学とよばれる学派が活躍していました。これは、思考や感覚・知覚が要素や部分の結合で成り立っているのではなく、全体性をもったまとまりとして成り立っているという捉え方を基本とする心理学です。
 

これだけでは何のことやらわかりませんが、たとえばメロディーは音という要素の集まりですが、私たちはバラバラな音の結合としてではなく、流れる一連のメロディーとしてそれを聴きます。あるいは森を見るときには、高い木が何本に低い木が何本、草が何本と見ているのではなく、森という一つのまとまりとして見ています。
 

このように、個々の部分や要素に分解しえない、まとまりをもつ全体的な構造をゲシュタルト(Gestalt 形態)と名づけて、全体性を強調する視点から心の働きを理解しようとしたのがゲシュタルト心理学です。
 

当時のゲシュタルト心理学は、感覚や知覚を中心とする研究が主流でしたが、ゲシュタルト心理学の影響を受けたレヴィンは、感情や欲求、パーソナリティなどの研究にこの考え方を応用しました。その意味では、レヴィンがモチベーション研究の実質的な創始者と言っても過言ではありません。
 

ドイツで活躍したレヴィンでしたが、ユダヤ系の彼にとっては、ナチスの台頭したドイツは研究上も生活上も安住の地ではなくなり、1933年にアメリカに亡命しました。そして、コーネル大学、スタンフォード大学、アイオワ大学の教授を歴任し、充実した多くの業績を残しました。
 

1945年にはマサチューセッツ工科大学(MIT)に設立された「グループ・ダイナミックス研究所」の初代所長に迎えられ、アクション・リサーチ手法の開発や小集団研究などその後の社会心理学の発展に多大な影響を与える研究を数多く手がけました。残念ながら1947年に57歳の若さで生涯を閉じましたが、レヴィンの門下からは社会心理学をリードする多くの世界的な研究者が育っています。
 

レヴィンは1933年に、アメリカでの講演の帰途日本にも立ち寄っています。日本では当時東京大学の学生を中心としてレヴィンの著作を読む「Lewin研究会」が開催されていました。ところがこの名称が「レーニン研究会」と警察に間違われる危険があったため、毎週の会合日をとって「木曜会」とあらためられたそうです。
木曜会のメンバーの多くはその後日本を代表する心理学者となりましたが、残念ながら皆さん鬼籍に入られています。

2019/03/28

代表的な思い込み心理

~ステレオタイプ・ハロー効果・包装効果・寛容効果・アンカリング~

代表的な思い込みの心理は以下の5つに分類される。

 

ステレオタイプ
一部の特性で人を分類し、その分類に一般的であると考えられる特性をあてはめる

(例)「最近のゆとり世代は-」「とかく近頃の若者は-」

 

ハロー効果
全体的な好悪の感情が細部の判断に影響を及ぼす

(例)英語のできる人であれば優れたビジネスパーソンであると評価する

 

包装効果
1つの特徴があれば、他の特徴もあるだろうと勝手にひと括りにして判断する

(例)「頑固な人は怒りっぽいだろう」

 

寛容効果
好ましい特性についてはより高く、好ましくない特性についてはより低く判断する

(例)好感の持てる社員には実際以上に判断が甘くなり、あまり好きでない社員には実際以上に判断が厳しくなる

 

アンカリング
ある事象の評価が、参照点として与えられた情報に 引きずられてしまう

(例)最初から3,000円の商品と、5,000円の定価が3,000円に値下げされている商品があると後者の方がお徳に思える

 

 

次の図を見て下さい。

 

 

○の段と×の段が横方向に交互に並んでいると見る人もいるでしょうし、縦に○と×が交互に並んでいると見る人もいるでしょう。これを斜めに○と×が交互に並んでいると見てもよいはずですが、そのようにとらえる人は 少ないと思います。多くの人は、横の○あるいは×の並びか、縦の○×交互の並びととらえるでしょう。 その方が「まとまり」として無理なくとらえることができるからです。

 

このように、含まれる要素が単独ではなく複数ある場合には、人はこれをまとまりやすい配列でとらえるという、群化あるいは知覚的体制化とよばれる傾向が存在します。まとまりとしてとらえるということは、情報を効率よく処理することができることにつながります。短い時間に判断しなければならない場合には、このような情報処理のやりかたが効果を発揮します。

 

思いこみ心理にも同様のメカニズムの働いていることが考えられます。A、B、Cという要素を別々に処理するのではなく、一つにまとめて処理できれば、それだけ素早い判断ができます。ステレオタイプや包装効果などの思いこみ心理は、その代表的な例といえます。もちろん、こうした判断がすべて間違いであるとはいえません。 人それぞれの経験からつくられる判断枠組みの中には、かなり的を射たものもあるでしょう。ただ、こうした判断だけに頼ると、まさに「思いこみ」が先行してしまって正確な実像をとらえ損ねることにもなりかねません。

 

もう一つ例をあげましょう。これは誰もが陥る錯覚現象です。並んでいる2本の線は同じ長さですが、両端に付いている矢羽根の向きによって線の長さが違って見えます。この錯覚現象(「ミュラー・リヤー錯視」)を知っていてもそう見えるのですから、知らなければ線の長さが同じであるとは気がつきません。

 

 

私たちの判断には、思いこみや錯覚が入り込みやすいということに注意しましょう。前のめりの判断をしていないか、心理的な錯覚にとらわれていないか、最終判断の前にもう一度振り返ってみることが大切です。

2019/04/25

コンフリクト理論

~コンフリクトの基本型~

組織行動学者のロビンスの3タイプとは別に、レヴィン(K. Lewin)は、対象に接近したいという欲求(接近欲求)と、対象から逃れたいという欲求(回避欲求)の存在を仮定することで、この2種類の欲求の存在が引きおこす3タイプのコンフリクトを考えました。
 
「接近 – 接近」コンフリクトは、魅力を感じ接近したいという対象が同時に複数(以下では2つを想定します)存在するのですが、どちらか一方しか選ぶことができないというコンフリクト状態です。職場の同期の飲み会と学校時代の仲間との飲み会が重なってしまい、どちらも行きたいのだけれど、時間や場所の制約で片方しか参加できないというような場合に生じます。この場合、対象はどちらもプラスの魅力をもっているので、より魅力の高い方を選ぶことになります。
 
「回避 – 回避」コンフリクトは、近づきたくない、回避したい対象に挟まれた場合に生じるコンフリクトです。新しい上司とそりが合わず職場に行きたくない、けれども仕事を休んで評価が下がるのもイヤだ、というような場合です。どちらにも近づきたくないため、両者からちょうど中間のあたりで行動は止まってしまいます。朝はギリギリに出てきて、仕事は適当にこなし、終業時間になったらできるだけ早く退社する。
「遅れず休まず働かず」といった行動になりがちで、これではモチベーションも高まりません。
 
3つめは「接近 – 回避」コンフリクトです。これは一つの対象が接近の魅力をもつと同時に回避の欲求も引きおこすという、一見変わったタイプのコンフリクトです。甘いものに目がないのだけれど、太りたくはない。職場では仕事は楽しいのだけれど人間関係が疲れる。こうしたコンフリクトは、一方で接近の行動を生むと同時に近づきすぎると回避の行動が生まれ、つかず離れずといった状態になります。一見変わったタイプと書きましたが、考えてみれば仕事の上でも普段の生活でも、このタイプのコンフリクトはむしろ日常茶飯事かもしれません。
 

2019/05/27